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大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)6700号 判決 1970年1月20日

原告 原田義郎

右訴訟代理人弁護士 土井一夫

被告(A) リフト工業株式会社

被告(B) 寺阪こと 寺坂忠太郎

主文

被告(A)は、原告に対し、金三〇万円及びこれに対する昭和四一年五月三一日から完済まで年六分の金員を支払え。

原告の、被告(B)に対する請求を棄却する。

訴訟費用のうち、原告と被告(A)との間に生じたものは同被告の、原告と被告(B)との間に生じたものは原告の負担とする。

この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

<全部省略>

理由

請求原因事実は、すべて被告らにおいて自白するところである(但し、被告(A)関係では擬制自白)。

そうすると、本件手形振出人たる被告(A)は原告に対し、原告請求どおりの利得金を償還する義務があるわけであるから、同被告に対し、これが支払を求める原告の本訴請求は正当として認容すべきである。

しかしながら、被告(B)に対する利得償還請求の当否は別に考える必要がある。

被告(B)の本件手形保証債務も時効によって消滅したことは当事者間に争いがないことは前示のとおりである。

ところで、手形保証債務が時効によって消滅した場合において、手形保証人が手形所持人に対し利得償還義務を負うものでないことは、手形法八五条の利得償還義務者の中に、手形保証人が掲げられていないことからみて明白であるけれども、特別の事情がある場合――例えば、手形上は振出人のために保証した形をとっているけれども、手形が振り出されたことにより、実質的にその対価を得た者が振出人ではなく手形保証人であり、延いては、手形上の債務が消滅したことにより利得した者が手形保証人であって、振出人がこれによりなんらの利得をしたといえないような場合――においては、形式上手形保証人とされている者が利得償還義務を負わねばならないと解すべきであるところ、本件においては、被告(B)の手形保証債務が消滅したことにより、同被告が利得したとみられる前示のような特別の事情の存在することについては、原告の主張立証しないところであるから、同被告には利得償還義務がないといわねばならない。

もっとも、原告は、被告(B)の手形保証債務が時効により消滅したことにより、同被告が本件手形金及び利息金と同額の利得をしている旨主張し、これを同被告が自白しているのであるが、「利得」をしたかどうかは法律上の価値判断であって単なる事実ではなく、従って、右自白はいわゆる権利自白として、必ずしも当裁判所を拘束するものではないから、右自白があるからといって、直ちに同被告に利得があったといわねばならないものではない。

してみると、被告(B)は本件手形についての利得償還義務者ではないわけであるから、同被告に対する原告の請求は失当として棄却されねばならない。<以下省略>。

(裁判官 下出義明)

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